桃山時代の陶器は、豪華さと遊び心が同居する独特の魅力を放っています。天下人のための華麗な茶陶から、庶民が日常で使った器まで、400年以上前の人々の感性はいまも私たちを惹きつけてやみません。
あなたなら、桃山時代の陶器にどんな「今」を見つけますか?
1.概要
現在、伊賀市ミュージアム青山讃頌舎では開館10周年を記念して、特別展「いまに息づく桃山陶器 ~桃山デザイン展 in 伊賀~」(2025年9月20日~2025年10月19日)を開催されています。その展示は、桃山時代の陶器と現代の作品を並べ、時空を超えて響き合う姿を見せてくれるものでした。
ポスターを飾っていたのは、屏風の場面と区切りに描かれる明るい金雲、そしてどこか愛嬌のある「ちどり」の図柄が施された器。豪華絢爛な桃山時代の天下人の文化と、質素の中にもデザインを楽しむ庶民の暮らしが同居しており、強烈な存在感を放っていました。
2.展示構成
○豊国祭礼図屏風の世界
まず展示室に入ってすぐに目に飛び込んできたのは、京都・豊国神社が所蔵する狩野内膳作、重要文化財『豊国祭礼図屏風』の高精細複製屏風です。退色や風合いまで実物と寸分違わぬ仕上がりで、1604年8月に豊臣秀吉の七回忌が豊国神社と方広寺周辺(現在の京都国立博物館近辺)で営まれた様子を描いており、当時の人々の様子を生き生きいます。
(豊国祭礼図屏風の全体の詳細はこちら。参考:京都で遊ぼうART)
右隻には豊国神社での七回忌祭礼が描かれ、神社の楼門前の仮設舞台周辺では田楽や大和猿楽四座(金春・観世・宝生・金剛)による「翁」の奉納、神官らの騎馬行列といったフォーマルな場面が展開されており、特に「翁」の奉納で描かれている衣装の「狩衣」の配色は、現在の四派が使用している狩衣とも共通しています。(金春が黄褐色、観世が青緑色、宝生が薄水色、金剛が青色が基調)
左隻では、方広寺大仏殿の門前で京都町衆が風流踊(豊国踊り)を踊るインフォーマルな場面が表されており、巨大な風流傘を中心に、金銀で飾り立てた踊り子たちが円陣を組んで舞い踊り、さらに巨大な筍や大黒に扮した人物まで登場。画面全体から、桃山時代の熱気が立ちのぼるようでした。
この屏風の中で、あなたならどの人物に目が行きますか?お気に入りを見つけてみてください。
○出土陶器の生活感
次に目を引いたのは、地下鉄工事の際に発見された「京都三条せと物屋町跡」からの出土品。桃山時代の町人たちが日常的に使用していた器の破片がずらりと並び、土の中から出土したとは思えないほど生々しさを感じさせます。
華やかな茶陶に加え、日常生活に根ざした素朴ながら意匠の施された器も並び、「桃山の美」は特権的な人々に限られず、日々の暮らしの中にも息づいていたことを示しています。
パネル解説でも、桃山陶器の特徴として「豊富な色彩」「角の取れた形状」「ゆるい図文」「写し崩し」「変形」「焼成」といったキーワードが挙げられていました。鮮やかな色彩や丸みを帯びたフォルム、わざと崩した図柄などからは、職人の遊び心と庶民の親しみやすさが伝わり、桃山陶器の魅力を一層身近に感じさせてくれます。
これらの欠片を前にすると、当時の町人たちの笑い声まで聞こえてくるようで、単なる工芸品を超えた「生活文化」の温もりが立ち上がってきました。
○古伊賀の力強さ

これは三重県指定文化財に登録されている奥知勇コレクションの古伊賀の陶芸。ごつごつとした土肌に伊賀焼のトレードマークであるエメラルドグリーンのビロード釉(燃料材である松材の灰が器にくっつき、それが高温で溶けた天然の釉薬)がかかり、また炎によって黒く焦げた痕跡がそのまま器の表情として残されています。
このコレクションは、郷土の愛陶家・奥知勇氏が長年にわたり収集したもので、その中から三重県指定有形文化財に認定された5点が今回出展されていました。郷土から寄贈された貴重な文化財が目の前に並ぶ光景は、地域の歴史と文化の重みをあらためて実感させてくれるものでした。
焼成の偶然が造形美を生み出し、「美しい」というよりも「器自身の意思でこの景色になった」と表現したくなる力強さがあり、人間の計算を超えた自然の作用が器の魅力を形づくり、その迫力に思わず立ち止まって見入ってしまいました。
○現代作家との対話
さらに印象的だったのは、京都市立芸術大学の学生による「桃山デザイン」の作品展示です。桃山陶器の破片をモチーフに、現代的な感覚でデザインに昇華させた作品や、伝統釉薬を新たに試みたオブジェなどが並びました。
中でも小坂学氏の「千秋晩成夢見草車椅子」が目を引きました。豊臣秀吉が息子の秀頼のためにベビーカーを作らせたらどんなイメージになったかというコンセプトで制作された作品で、四つの車輪やフレームは現代のベビーカーそのもの。けれども全面に黒漆と金銀蒔絵を施し、桜や丸紋を散らした豪奢な御所車風に仕立てられており、その滑稽さと美しさが桃山時代を象徴する作品となっていました。
不思議なことに、これらの現代作品は古伊賀と並んでいても違和感がありません。むしろ「桃山の自由さ」を継承する存在として響き合っていました。過去と現在が同じ展示室でひとつにつながった瞬間でした。
3.まとめ
この展覧会は、単に桃山陶器を振り返る場ではありませんでした。伊賀焼に宿る偶然の美、出土陶器が語る町人の日常、屏風に描かれた祭礼の熱気、そして現代作家の挑戦。
そのすべてが一堂に会し、「桃山のデザインは、いまも私たちの感覚に息づいている」と実感させてくれました。
4.展覧会情報
特別展「いまに息づく桃山陶器 ~桃山デザイン展 in 伊賀~」
会場:伊賀市ミュージアム青山讃頌舎(〒518-0226 三重県伊賀市阿保1411-1)
会期:2025年9月20日(土)~ 2025年10月19日(日)
休館日:火曜日
開館時間:10:00 ~ 16:30(入館は16:00まで)
観覧料:一般 300円、高校生以下無料


