江戸の版画は浮世絵だけじゃない!!日本銅版画30の極み②

司馬江漢に続き、日本銅版画の技術を発展させたアーティストを紹介します。
〇亜欧堂 田善(あおうどう でんぜん、1748年~1822年)
「日本に生まれたオランダ人」。陸奥国須賀川(現在の福島県須賀川市)生まれ。他に須賀川市生まれの有名人としてウルトラマンの生みの親、円谷英二監督や、1964年の東京オリンピックで男子マラソン3位入賞の円谷幸吉選手がいます。
農具商の次男として生まれ、父が亡くなった後は兄の紺屋(藍染商)を手伝いながら、絵心のある兄から絵を習びました。1772年、伊勢参りの際、宇治山田寂照寺の月僊(1741年~1809年)について画を学び、それ以後、「田善」と号するようになりました。
1794年、46歳の時、きっかけが不明ですが彼の住む須賀川が属していた白川藩に取り立てられ扶持を賜り、帯刀も許されます。その白川藩主こそ、「寛政の改革(1787年~1793年)」を実行し、蔦屋重三郎らに対して出版統制を断行した松平定(1759年~1829年)でした。彼は芸術文化活動への強烈な統制を行っていましたが、実は芸術文化活動を好む一面も持っており、老中を退任後は一転して芸術文化活動の庇護者に転じ、全国規模で初めて国内の文化財保護を目的とした古物・古美術の木版図録集である「集古十種」を編纂しています。
田善は定信の後ろ楯を得たことで、銅版画や油彩などの新しい芸術に没頭していきます。「亜欧堂」の堂号は、定信からアジアとヨーロッパに亘るという意味で授けられました。彼の作品を見ていきましょう。

 

「大日本金龍山之図」
浅草寺浅草浅草寺の賑やかな境内。多くの参拝客で賑わう様子をエッチングで表現し、その細密描写は目を見張るものがあります。遠近法の一点透視図法を用いて画面を構成したためか、伽藍の配置は実際のものとは異なっていますが、前方に配置される人物についてはその表情や仕草まで読み取ることができます。また線を密に配置したり、線の濃さを腐蝕させる時間の長短によって調整することで、作品内の濃淡を表現していることも彼の作品の特徴です。
「二州橋夏夜図(小型江戸名所図)」
江戸の夏の風物詩、隅田川の花火が弾けた瞬間を捉えた作品。しかし夜空に浮かぶその姿は大怪獣キングギドラを彷彿とさせるような迫力。このように花火を火の玉と煙で描写する表現は彼独特のものであり、その他にも斜めに線をクロスさせて密に配置することで晴天の漆黒の夜空を表現しています。
「真洲先稲荷隅田川眺望(小型江戸名所図)」
上記作品とは異なり、落ち着いき静けさが漂う雰囲気を持つ作品。隅田川河畔の神社の風景ですが、注目すべき点に樹木の表現方法が挙げられます。鳥居や建物の直線的な表現に対して、樹木は曲線的に、かつ密に表現されており、ゴツゴツした質感が伝わってきます。

 

1816年に白川藩の御用絵師を辞し、町絵師に戻ります。その時にはエッチングに必要な銅版や薬剤が以前ほど手に入らなくなったので、制作は次第に日本画に移っていきました。75歳で没。

皆さんもぜひ会場でご覧ください。

【参考文献】
「もっと知りたい司馬江漢と亜欧堂田善 生涯と作品」 金子信久 東京美術 2022年
「日本銅版画30の極み」 神戸市立博物館 2025年

江戸の版画は浮世絵だけじゃない!!日本銅版画30の極み③へ続きます。)


音声ガイド:なし
作品撮影:すべての作品で可能
(「古地図からひろがる世界」展も同様)
図録:900円

神戸市立博物館
特別展 日本銅版画30の極み
2025年2月1日(土)~3月23日(日)
休館日: 月(ただし、2月24日[月・振休]は開館)、2月25日(火)
午前9時30分~午後5時30分
※展示室への入場は閉館の30分前まで
※金曜・土曜は午後8時まで開館