日本画アヴァンギャルド KYOTO 1948-1970 徹底紹介 ー 日本画のイメージが反転する、戦後京都の熱 ー

1. 日本画アヴァンギャルドとは?戦後京都で起きた“前衛日本画”

日本画」と聞くと、菱田春草横山大観らが描く、余白の美しさや墨の静けさ、和の題材――そんなイメージが先に立つ方も多いのではないでしょうか。

ところが本展「日本画アヴァンギャルド KYOTO 1948-1970」が見せるのは、そうした“おだやかな伝統”とは別の顔です。余白や墨、岩絵具が、ときに「挑発」や「抵抗」のために使われる瞬間があります。

戦後の京都では、日本画が既存の価値観におとなしく回収されることを拒み、内部から更新しようとした画家たちの芸術運動がありました。本展は、その運動のなかで生まれた作品と資料をたどる回顧展です。(画像は著者作成)

本展がユニークなのは、「日本画でもこんなことができた」という珍品を集めるのではなく、当時の京都画壇で日本画という枠組み(画材・見方・制度)そのものを揺さぶった複数の団体の活動=運動として、全体像を総覧する点にあります。

中心となるのは、創造美術パンリアル美術協会ケラ美術協会という三つのグループです。

つまりこれは、個々の天才の逸話というより、集団で制度に対抗し、表現の言語を作り替えようとした「批評精神」の記録でもあります

あなたの日本画イメージは、どこで反転するでしょうか?そこを探していただければと思います。

※ここで言う「前衛」とは、作品の見た目だけでなく、「日本画の当たり前(ルール)を更新しようとする動き」のことです。


2. 本展が特別な3つの理由

戦後の京都は、日本の「前衛芸術」の発信地のひとつでもありました。旧来の芸術のあり方のままでよいのか。若い作家たちは自分たちの表現やアイデンティティを必死に探し回ります。そうした運動が重なった土地から、のちに日本画の重要作家も多数生まれていきました。

本展が特別な理由は、次の3点に集約できます。

理由① 戦後京都の“運動”として、日本画の更新を総覧できる

本展は、戦後京都で日本画が内部から更新されていく過程を、複数の団体=運動として俯瞰できる構成になっています。

理由② 社会状況と教育環境を含めて理解できる

当時の社会状況や教育環境(京都市立芸術大学の前身校を含む文脈)とともに、日本画の概念が揺れた理由をたどれる点も魅力です。

理由③ “日本画のイメージ”が反転する体験が起きやすい

余白、墨、岩絵具といった要素が、静けさや品のためだけでなく、むしろ挑発や抵抗、更新のために用いられていく場面に出会えます。


3. 日本画を「題材」ではなく「画材の言語」で理解する

前衛の日本画作品を楽しむコツは、日本画を「日本的な題材を描く絵」だと決めつけないことです

日本画は、和紙や絹といった支持体、膠、岩絵具、胡粉、墨などの素材や工程――いわば“画材の言語”によって画面が成立しやすい領域だと言えます。

ところが、表現の世界が権威化すると、一定方向の価値観が固定化し、停滞が生まれやすくなります。戦後はまさに、その前提が強く揺れ、日本画への批判も高まった時代でした。

※ここで言う「制度」とは、公募展や画壇など“評価のルール”のことです。

その切迫感のなかで京都の画家たちは、日本画の枠組みを守るのではなく、内部から組み替えようとします。本展では、そうした“更新の試み”をまっすぐに見ることができます。

そのため本展では、題材よりも「どんな絵肌が立ち上がっているか」を手がかりにすると、理解が早くなります。


4. 鑑賞の地図:三つのブロックで把握する

鑑賞の地図として、まずは次の三つのブロックで捉えると理解が進みます。

① 社会背景(戦後京都の空気)

日本画もまた問い直しの対象となり、「いま生き延びるには何を変えるべきか」という問題意識が前面に出ました。

② 団体(運動)としての更新

創造美術/パンリアル美術協会/ケラ美術協会という三つの団体=運動が、本展の核です。

(覚え方:創造美術=足場の組み替え/パンリアル=現実×抽象/ケラ=素材の突破)

③ クライマックス(「これが日本画?」体験)

余白、墨、岩絵具といった“伝統美”のイメージが塗り替えられる瞬間が山場です。


5. 創造美術・パンリアル美術協会・ケラ美術協会の特徴

戦後の京都において前衛日本画をけん引した三つの団体を紹介します。同じ「前衛」でも、その更新の戦略が異なります。

創造美術(現  創画会)

創造美術(現  創画会)伝統を壊すのではなく、足場を組み替える“正攻法の更新”
代表作家:上村松篁向井久万秋野不矩
目印作品:向井久万《浮游》(前期)、秋野不矩《少年群像》(前期)

パンリアル美術協会

パンリアル美術協会現実を直視し、抽象も取り込んで“日本画を再起動”
代表作家:大野俶嵩三上誠
目印作品:大野俶嵩《緋 No.24》(通期)、三上誠《灸点万華鏡1》(後期)

ケラ美術協会

ケラ美術協会「日本画材」に縛られず、素材そのものを武器にする“臨界点の前衛”
代表作家:岩田重義/榊健/野村久之
目印作品:岩田重義《Work-139》(3/24〜5/6展示)、榊健《Opus.63-4》(通期)、野村久之《Sanctuary》(通期)


6. 鑑賞ポイント:絵肌(粒・層・擦れ)に注目してください

抽象が分からない、題材が読み取れない――そう感じたときこそ、絵柄より先に絵肌に注目して見てください。ちょっと難しく感じるかもしれませんが、まずは“わかろう”より“感じ取ろう”で大丈夫です。

遠目で構図や色の塊を受け取り、次に近づいて粒子、層、擦れ、吸い込みといった物質の情報を読みます。もう一度遠くに戻って全体を見ると、最初は抽象に見えたものが、別の意味を帯びて立ち上がる場合があります。


7. まとめ:日本画の見方が変わる展覧会

本展は、日本画を「美しい伝統」として説明する展示ではありません。戦後京都で日本画が批判と危機のなかに置かれたとき、画家たちが何を壊し、何を作り、どこまで拡張しようとしたのかを見せます。

迷ったら、①絵肌、②三団体の違い、この2つだけで十分です。

今日紹介した目印作品のうち、あなたが「いちばん効いた一枚」はどれでしたか?

作品名でも、「この作品のこの質感」でもいいので、探してみてください。


8. 展覧会情報

日本画アヴァンギャルド KYOTO 1948-1970

会期:2026年2月7日(土)〜2026年5月6日(水)
【前期】2月7日(土)〜3月1日(日)
【中期】3月3日(火)〜4月5日(日)
【後期】4月7日(火)〜5月6日(水)
会場:京都市京セラ美術館 東山キューブ
開場時間:10:00〜18:00(最終入場 17:30)
観覧料:一般 1,800円/大学・専門学校生・高校生 1,300円/ペア券 3,200円(一般のみ)
中学生以下無料
休館日:月曜日(祝・休日の場合は開館)

※本ページは公式サイトの情報をもとに制作しています。