「生誕140年 YUMEJI展」竹久夢二、その代表作。

はじめに|名前は知っている。でも、どんな画家かは知らない

美術館でよく目にする名前でも、「どんな作品を描いた画家なのか」をきちんと説明できる人は意外と多くありません。竹久夢二も、その一人ではないでしょうか。

「大正ロマン」「夢二式美人」といった言葉が先に立ち、少し距離を感じてしまう人もいるかもしれません。本展「生誕140年 YUMEJI展 ~大正浪漫と新しい世界~」は、そうした先入観をいったん脇に置き、夢二の仕事を構造的にたどる回顧展です。

本記事では、展示の流れに沿って、各章で何が示されているのかを整理しながら紹介していきます。

プロローグ|「夢二式美人」以前の夢二

展示の導入部では、いわゆる「夢二らしさ」が前面に出る前の作品が紹介されます。ここでまず確認できるのは、夢二が最初から様式化された美人画を描いていたわけではない、という点です。

本展を通して見ると、夢二の表現は一貫しているようでいて、実は少しずつ変化しています。その出発点として、このプロローグは重要な位置を占めています。

第1章|初期代表作『林檎』が示すもの

1914年に制作された日本画『林檎』は、本展における初期代表作として位置づけられています。面長の顔立ち、大きな瞳、しなやかな手先など、後に「夢二式美人」と呼ばれる要素がすでに見て取れますが、表情にはまだ柔らかさがあります。

林檎の木の下に立つ女性の頬に差す赤みや、控えめな身振りからは、理想化された像というよりも、感情の機微を探ろうとする視線が感じられます。本章では、夢二の人物表現がどのように形づくられていったのかを確認することができます。

第2章|油彩画というもう一つの表現

本展の特徴の一つが、現存数の少ない油彩画がまとまって展示されている点です。中でも『アマリリス』(1919年)は、展覧会の中核をなす作品の一つといえるでしょう。

赤を基調とした画面構成、花と人物を重ね合わせる構図、そして日本髪に着物姿という組み合わせは、西洋的な油彩技法と日本的モチーフを共存させています。油彩画という媒体を通して、夢二が「大正ロマン」と呼ばれる世界観をどのように更新しようとしていたのかが見えてきます。

第3章|時代の空気を映す人物像

1920年前後に制作された『秋のいこい』では、人物の佇まいと背景が強く結びついています。落ち葉が舞うベンチに座る女性の視線は、どこか定まらず、画面全体に静かな緊張感を与えています。

第一次世界大戦後の社会情勢や都市生活の不安定さが、直接的な描写ではなく、情景として反映されている点が特徴的です。本章では、夢二が個人の感情と時代の空気をどのように重ね合わせていたのかが読み取れます。

第4章|渡米期と表現の変化

1930年代初頭、夢二は渡米し、ロサンゼルスを拠点に活動します。その時期に描かれた『西海岸の裸婦』は、本展でも異色の存在です。

金髪の裸婦像や、ストライプ状の背景など、西洋的なモチーフが前面に出ていますが、人物の表情にはどこか夢二特有の陰影が残されています。本章では、環境の変化が表現にどのような影響を与えたのかを確認することができます。

第5章|デザインと挿絵の仕事

油彩画や日本画だけでなく、夢二はデザイナーとしても多くの仕事を残しています。千代紙、雑誌の表紙、挿絵など、日常に近いメディアで展開された表現は、本展でも重要な位置を占めています。

ここでは、作品単体の完成度よりも、反復されるモチーフや線の整理のされ方に注目すると、夢二の造形感覚がより明確に見えてきます。

まとめ|「大正ロマン」を構造として見る

本展を通して浮かび上がるのは、竹久夢二が単なる情緒的な画家ではなく、時代・媒体・技法を横断しながら表現を組み立てていた存在であったという点です。

「大正ロマン」という言葉の背後にある構造を知ることで、夢二の作品は別の表情を見せてくれます。先入観をいったん手放し、展示の流れに身を委ねることで、納得感のある鑑賞体験につながる展覧会です。

展覧会情報

生誕140年 YUMEJI展 ~大正浪漫と新しい世界~

会場:あべのハルカス美術館(あべのハルカス16F)
会期:2025年1月18日(土)~3月16日(日)※会期中無休
音声ガイド:なし
作品撮影:一部作品で可能 図録:2,900円(レターブック付き 4,500円)
※本記事で紹介した作品は、夢二郷土美術館所蔵作品を中心としています。