導入: ── モヤモヤしたまま来ていい展覧会。
シュルレアリスムって、なんとなく知ってるけど正体はよくわからない――。
そんなモヤモヤをそのまま美術館に持ち込んでいい展覧会が、大阪中之島美術館で2025年12月13日(土)から始まります。
絵画や写真だけでなく、広告、ファッション、インテリアまで――
私たちの日常そのものを「ちょっと不穏に、でも妙に魅力的に」ずらしてみせるのが、この「拡大するシュルレアリスム展」です。
本展では、日本国内の美術館・博物館コレクションを中心に、オブジェ → 絵画 → 写真 → 広告 → ファッション → インテリアという流れが全6章で紹介されています。
見終わったあと、
「変なのに、どうしてこんなに気になるんだろう?」
という感覚が、自分の中のもうひとつの現実として静かに残っているかもしれません。
第1章 オブジェ ― 「客観」と「超現実」のあいだに
★この章で見えること:日常の“モノ”がどうやって「超現実」へ変わるか。
シュルレアリスムを語るときにまず立ち上がるのは、ありふれたものが、ありふれて見えなくなる瞬間。
この章は、「オブジェ」――つまり“モノ(客体)”に視線を向けるところから始まります。
運動の創始者アンドレ・ブルトンは、1924年の『シュルレアリスム宣言』で
「夢の全能性(夢が現実より強い力を持つという考え)」
「より高次のリアリティ(心の奥でふいに立ち上がる、もうひとつの現実)」
への信頼を掲げました。
ここで展示されるのは、絵のスタイルではなく、世界の見方そのものを揺さぶる態度。
日常の物を冷静に「モノ(客体)」として見つめ直すと、その表面から“別の現実”が滲み出してくる――。その「超現実(surreality:日常と夢が交差するような不思議な現実)」が姿をあらわす瞬間こそ、この章の核心です。
【代表作品例】
アンドレ・ブルトン『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』(初版本, 1924年)
フランシス・ピカビア『黄あげは』(1926年)
あなたなら、どんな“ありふれたモノ”が別の現実に見えるでしょうか。
第2章 絵画 ― 視覚芸術の新たな扉
★この章で見えること:写実的な絵画が、なぜ私たちの現実感を揺らすのか。
この章には、もっともイメージしやすい「シュルレアリスム絵画」が並びます。
しかし、ここで出会う作品は“奇妙な夢の絵”という印象を越え、より深い仕掛けを秘めています。
シュルレアリスムは、自動筆記(オートマティスム:頭で考える前に手を動かす方法)といった文学の実験から生まれましたが、その発想はやがて絵画へと広がりました。
マックス・エルンスト、サルバドール・ダリ、ルネ・マグリットたちは、細部まで写実的に描き上げつつ、”説明のつかない「ズレ」や「違和感」”を静かに潜ませます。
鍵となる逆説――
「リアルに描けば描くほど、現実から遠ざかっていく。」
影の伸び方、空気の質感、比率のわずかな狂い。
その“ほころび”が、画面全体の現実感をそっとはがしていきます。
【代表作品例】
イヴ・タンギー『失われた鐘』(1929年, 豊田市美術館)
ルネ・マグリット『レディ・メイドの花束』(1957年, 大阪中之島美術館)
あなたは、この絵の“ズレ”をどこに感じますか。
第3章 写真 ― 変容するイメージ
★この章で見えること:写真が“現実の証拠”ではなくなる瞬間。
19世紀に誕生した写真は、長く「現実をそのまま写す」装置として信頼されてきました。
しかしシュルレアリストたちは、その信頼をひっくり返します。
● 多重露光(複数の像を重ねる)
● ソラリゼーション(像がポジとネガのあいだで反転する)
● コラージュ(紙片や写真を切り貼りする)
これらの技法を徹底的に使い倒し、日常のモチーフを“意味の読み取れないイメージ”へと変貌させました。
境目がどこにあるのか、あえて探してみてください。
その“境目のなさ”が、シュルレアリスム写真の魔法です。
この章は、今日のデジタル加工文化やSNSの“盛られた現実”を考えるヒントにもなります。
【代表作品例】
ヴォルス『美しい肉片』(1939年)
写真が“現実そのもの”だと、あなたは信じられますか。
第4章 広告 ― 「機能」するシュルレアリスム
★この章で見えること:シュルレアリスムが広告に自然に広がった理由。
ここから舞台はいよいよ美術館を離れ、社会に広がっていきます。
「拡大するシュルレアリスム」が最もわかりやすく見える章です。
デペイズマン(場違いな取り合わせ)、コラージュ、フォトモンタージュ――。
これらは広告にとって、目を奪うための強力な武器になりました。
今日のSNS広告の世界でも、“一瞬で心をつかむ違和感” は非常に重視されています。
その源流がここにあるのです。
【代表作品例】
クルト・セリグマン『国際シュルレアリスム展』(1938年, サントリーポスターコレクション, 後期展示)
フリッツ・ビューラー『ポスター「ジオデュの帽子」』(1934年, 宇都宮美術館, 後期展示)
街でこの手法を見つけたら、それを広告として見ますか?それとも作品として見ますか?
第5章 ファッション ― 欲望をまとうデザイン
★この章で見えること:ファッションが“身体のオブジェ化”と結びつく仕組み。
シュルレアリスムとファッション――ときめかないわけがありません。
作家たちと深く交流したデザイナー、エルザ・スキャパレッリ。
ショッキング・ピンクのドレス、フェティッシュを含んだ香水瓶、ジュエリー。
身体そのものを“動くオブジェ”に変えるデザインが並びます。
服飾雑誌のレイアウトや、無言で立ち尽くすマネキンの身体。見る/見られる、その欲望の力がここで鮮やかに立ち上がります。
【代表作品例】
ヴォルス『無題』(1937 / 1979年再プリント, 横浜美術館, 後期)
エルザ・スキャパレッリ『イヴニング・ドレス「サーカス・コレクション」』(1938年, 島根県立石見美術館, 前期)
あなたが身につける服には、どんな“物語”が潜んでいますか。
第6章 インテリア ― 室内空間の転覆
★この章で見えること:日常空間が“揺らぎの場”へ変わる瞬間。
私たちがもっとも長く過ごす室内。
その“安心の空間”がシュルレアリスムの視線にさらされると――。
足が鳥の脚になったテーブル、奇妙に有機的な家具。
家具が「役に立つもの」から“意味はわからないのに忘れられない存在”へと変わります。
この章は、シュルレアリスムが芸術にとどまらず、生活そのものに入り込んで現実感をずらす運動だったことを静かに物語ります。
【代表作品例】
メレット・オッペンハイム『鳥の足のテーブル』(1939 / 1983年, 岡崎市美術博物館)
あなたの部屋には、どんな“揺らぎの影”が潜んでいますか。
コラム:二人の山高帽と、日常を侵食するシュルレアリスム
本展の見どころのひとつは、ルネ・マグリットの二つの作品が大阪で“並ぶ”ことです。
● 横浜美術館所蔵『王様の美術館』
● 大阪中之島美術館所蔵『レディ・メイドの花束』
どちらにも登場する“山高帽の男”たちが、まるで静かに対話を交わしているように見えてきます。
とくに、人物の立ち位置やフレームの切れ方に注目してみてください。
「何を見ているか」「何を見ていないか」の差が、作品同士の会話を生みます。
その視線の往復の中で、
「現実も誰かのフレームの中にあるのかもしれない」
という感覚がじわりと立ち上がります。
まとめ:100年後のいま、「超現実」はどこにある?
シュルレアリスムが誕生して100年。
無意識、夢、偶然の出会い――こうしたテーマは、もはや特別ではなく、広告にもSNSにも浸透しています。
この展覧会が教えてくれるのは、シュルレアリスムとは画風ではなく、世界を“別の現実”として見直すための態度だということ。
その態度は、視覚芸術だけでなく、生活デザイン、イメージ戦略にも深く入り込み、いまの私たちの感覚を静かに形づくっています。
美術館を出たあと、街のポスターやショーウィンドウ、自宅の家具の影ですら、ほんの少しだけ“シュルレアリスムっぽく”見えてしまうかもしれません。
その違和感に気づいたとき――
この展覧会は、すでにあなたの日常で続いているのです。
展覧会情報
拡大するシュルレアリスム――視覚芸術から広告、ファッション、インテリアへ
会場:大阪中之島美術館 4階展示室(〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島4-3-1)
会期:2025年12月13日(土)〜 2026年3月8日(日)
前期:2025年12月13日(土)〜 2026年1月25日(日)
後期:2026年1月27日(火)〜 2026年3月8日(日)
開場時間:10:00〜17:00(入場は16:30まで)
休館日:月曜日
および 12/30(火)、12/31(水)、1/1(木・祝)、1/13(火)、2/24(火)
※1/12(月・祝)、2/23(月・祝)は開館
観覧料(税込):一般 1,800円 高大生 1,500円 小中生 500円
巡回情報:東京オペラシティ アートギャラリー
会期:2026年4月16日(木)〜 2026年6月24日(水)


