1.展覧会概要
大阪中之島美術館で、日本近代洋画史に新たな潮流をもたらした画家、小出楢重(こいで ならしげ 1887年~1931年)の大規模回顧展「小出楢重 新しき油絵」が2025年9月13日より開催されます。
彼は大正から昭和初期にかけて、従来の写実的な洋画にとらわれない自由で装飾的な油彩表現を追求し、「モダン大阪」を象徴する存在となりました。
本展では、活動初期から晩年に至る代表作を中心に、スケッチや資料を含む約120点で構成。小出が掲げた「新しき油絵」という理念を、現代の視点から見つめ直します。
2.小出楢重とその背景
小出楢重は大阪出身。1910年代後半に東京美術学校を卒業後、渡仏してパリで最新の美術潮流を吸収しました。
帰国後は大阪を拠点に創作活動を展開、関西洋画壇をリードする存在に成長します。彼が描く人物や静物は、装飾性とモダンなデザイン感覚が融合し、それまでの日本洋画にはない「都市的で新しい油絵」として注目を集めました。
この時代(1920年代)の大阪は商業都市として文化が花開いた時期で、彼の作品はその時代精神を色濃く映し出しています。
3.展覧会、見どころ紹介
初期:模索期と伝統洋画への挑戦
写実的な技法を基礎としつつ、ゴッホやセザンヌら西洋近代絵画からの影響を受けた初期の作品を紹介します。重要文化財『Nの家族』(1919年、大原美術館蔵、岡山)は、若き小出が家族を題材に描いた記念碑的作品で、温かみと同時に造形的な探究心がにじみ出ています。
また、『奈良を散歩する西洋人』(1919年)では、異国文化への眼差しが新鮮に表現されたポップな印象を受け、当時の彼が抱いていた世界観の広がりが感じられます。
成熟期:新しき油絵の確立
1920年代、小出は大阪を拠点に独自のモダンな油彩表現を確立します。『街景』(1925年、大阪中之島美術館蔵)は、都市の活気を平面的な構成で大胆に描き、従来の洋画とは一線を画す作品です。 さらに代表作『裸女結髪』(1927年、京都国立近代美術館蔵)、『横たわる裸身』(1930年、アーティゾン美術館蔵、東京)などは、モダンガールの姿を装飾的かつ洗練された造形で表現し、都市文化の華やかさを象徴しています。
晩年:病と静謐
晩年、小出は病に苦しみながらも創作を続け、作品には静けさと精神性が漂います。『卓上静物』(1928年、京都国立近代美術館蔵)は、限られた色彩と簡潔な構成で、深い抒情と静謐な空気を湛えた傑作です。また、『枯木のある風景』(1930年、ウッドワン美術館蔵、広島)には、自然と人間の生の儚さを重ね合わせるようなまなざしが宿り、画家晩年の心境が反映されています。1931年に心臓発作のため他界。43歳でした。
※作品の詳細はこちらからご確認ください。
4.まとめ・締め
「新しき油絵」という言葉には、小出楢重が伝統や常識に縛られず、油彩画を現代的な芸術として刷新しようとした強い意志が込められています。
彼の活躍した時代から約100年を経た現在、私たちはその挑戦を見直し、どのように受け止めるのか――大阪で生まれたモダンアートの原点を、この機会にぜひ体感してください。
5.展覧会情報
会期:2025年9月13日(土)~11月24日(月・休)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日休館)
会場:大阪中之島美術館 4階展示室
開館時間:10:00~17:00(入館は閉館30分前まで)
観覧料:一般2,000円、大学生1,400円、高校生1,000円、中学生以下無料
◎同時開催:コレクション特別展示「異邦人のパリ」
本展と同時開催で、「異邦人のパリ」として大阪中之島美術館のコレクションも特別展示されます。小出楢重と同時代にパリへ渡り、同地で活躍した日本人画家や、さまざまな国からパリの画壇を夢見て活動したエコール・ド・パリの画家たちの作品を一堂に紹介し、1920年代のパリが、異なる背景や文化を持つ画家たちの出会いと挑戦の舞台であったことを示しています。
主な出品作は以下の通りです。作品の詳細はこちらからご確認ください。
○藤島武二 『カンピドリオのあたり』1919年
日本洋画界の先駆者で、ロマン主義的な叙情と装飾性を兼ね備えた作風で知られています。西洋美術を積極的に吸収し、明治から昭和にかけて日本近代洋画の発展に大きく貢献しました。
○佐伯祐三 『煉瓦焼』1928年、『郵便配達夫』1928年
パリを拠点に活動した大阪出身の洋画家です。街角や建物を激しい筆致で描き、彼独自の都市風景画様式を確立しました。短命ながらも20世紀日本洋画史に大きな影響を与えています。
○アメデオ・モディリアーニ 『髪をほどいた横たわる裸婦』1917年
イタリア出身でパリのエコール・ド・パリを代表する画家です。細長い顔や優雅な曲線で知られる肖像画や裸婦像を多く残し、20世紀初頭のモダンアートに革新をもたらしました。
○キスリング 『オランダ娘』1922年
ポーランド出身。肖像画や静物画を、明快な色彩と華やかな構図で描くのが特徴で、当時のパリで人気を博しました。エコール・ド・パリを象徴する存在としても知られています。
○ジュール・パスキン 『腰掛ける少女』1925年
ブルガリア出身。柔らかい線と淡い色彩で女性像や都市風景を描きました。エコール・ド・パリの詩情あふれる世界観を体現し、後世の多くの芸術家に影響を与えています。
小出楢重の「新しき油絵」が生まれた背景には、こうした国際的な交流の中での刺激がありました。本展と併せて鑑賞することで、20世紀初頭のパリと日本の芸術シーンをより立体的に理解できると思います。ぜひ現地で体感して見てください。


