全国各地には、その土地の自然や暮らしに寄り添った、手仕事の伝統が息づいています。今回ご紹介するのは、染色織物。素材選びや技法、作り手たちの思い、そして柳宗悦ら民藝運動の人々が注いだまなざしを、産地とともにたどります。
○染色織物
小千谷縮(新潟県)
「雪国が磨く、肌離れと透明感」
小千谷縮は、新潟県小千谷市周辺で作られる手績みの苧麻糸を用いた高級夏織物です。緯糸に強い撚りをかけて織り、湯もみで生まれるシボが肌離れよく、涼やかな着心地を生み出します。美しい絣模様や雪晒しによる白さも特徴で、現在は年間数反しか生産されない幻の織物です。柳は「越後が第一に誇りとしてよい」と絶賛し、著作「手仕事の日本」の中で「多くの経験が積み重なって生まれた驚くべき技」と敬意を表しました。
(現地施設)小千谷織物同業協同組合
(参考ぺージ) 銀座もとじ 染織に宿る“本物”の美とは。民藝の提唱者・柳宗悦の軌跡を辿る着物街道の旅 知るを楽しむ、青空文庫 柳宗悦「手仕事の日本」 (画像)Kropsoq / Wikimedia Commons, パブリックドメイン
結城紬(茨城県、栃木県)
「手仕事が生む、真綿のぬくもり」
結城紬は、茨城県や栃木県で作られる日本を代表する絹織物です。鎌倉時代から続く伝統があり、領主・結城氏の名に由来します。真綿を撚りをかけずに糸にし、手織りでふっくらと織り上げることで、軽くてあたたかく、肌になじむ優しい着心地が魅力です。
色は濃紺や黒、茶、鼠色などの落ち着いた自然色が多く、植物染めによる深みのある色調も特徴です。柄は細かな亀甲絣や十字絣、矢羽根、花模様などの絣模様、素朴な縞柄や格子柄が代表的です。伝統的な地機(じばた)という織機を使い、床や畳の上に座って手作業で織るため、ふんわりとした風合いが生まれます。画像の柄は亀甲絣柄です。
柳は著書「手仕事の日本」で結城紬の地機による「手堅い仕事」を高く評価し、太縞の素朴さや丁寧な技、深い味わいに敬意を表しています。
(現地施設)つむぎの館
(参考ぺージ) 銀座もとじ 染織に宿る“本物”の美とは。民藝の提唱者・柳宗悦の軌跡を辿る着物街道の旅 知るを楽しむ、青空文庫 柳宗悦「手仕事の日本」 (画像)Naokijp / Wikimedia Commons, パブリックドメイン
黄八丈(東京都)
「島の自然が染める三色の光沢」
東京都八丈島に800年以上伝わる伝統的な絹織物で、島に自生する草木を使って染める鮮やかな黄色・鳶色・黒色の三色が最大の特徴です。生糸を使った平織や複雑な綾織により、優雅な光沢としなやかな風合い、堅牢さが生まれます。江戸時代には江戸庶民に粋な織物として大流行し、島の名の由来の一節となりました。黒色は椎木の皮で40回も染め重ねて作られるなど、非常に手間がかかります。柳宗悦は「手仕事の日本」で、八丈島の黄八丈を「正しい道を踏む一流の織物」と讃え、自然と人の技が生み出す美しさに深い敬意を表しました。画像の太鼓を叩く女性たちが着ているのが黄八丈です。
(現地施設)黄八丈めゆ工房
(参考ぺージ) 銀座もとじ 染織に宿る“本物”の美とは。民藝の提唱者・柳宗悦の軌跡を辿る着物街道の旅 知るを楽しむ、青空文庫 柳宗悦「手仕事の日本」 (画像)江戸村のとくぞう / Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0
丹波布(兵庫県)
「再発見された静かな渋い布」
丹波布は、兵庫県丹波市青垣町で織られる伝統的な縞木綿布で、江戸時代末に生まれました。経緯糸ともに手紡ぎ木綿糸を使い、藍や栗の皮など地元の植物で草木染めし、手織りなど全工程を手作業で行うのが特徴です。ざっくりとした素朴な風合いと渋い色合いが魅力で、かつては京の町衆にも広く愛用されていました。一時は生産が途絶えましたが、柳宗悦が京都の古物市でこの布に出会い(「工藝の道」)、青田五良・上村六郎両氏に調査を依頼。その結果、丹波地方の佐治町で佐治木綿や縞貫と呼ばれていた布であることが判明し、柳は「静かな渋い布」と称賛して「丹波布」と命名、復興の契機となりました。
(現地施設)丹波布伝承館
(参考ぺージ) 銀座もとじ 染織に宿る“本物”の美とは。民藝の提唱者・柳宗悦の軌跡を辿る着物街道の旅 知るを楽しむ、株式会社 市原亀之助商店 「丹波布」を愛した民芸運動創始者・柳宗悦氏、青空文庫 柳宗悦「工芸の道」
(画像) 著者撮影
備後絣(広島県)
「藍と白が織りなす、庶民の日常に根ざした美」
広島県東部の福山市・府中市周辺で発展した備後絣は、江戸時代後期に始まったとされる伝統的な綿織物で久留米絣・伊予絣と並び「日本三大絣」の一つです。久留米絣の技法を取り入れつつも、独自の絣模様や技法を発展させ、藍染めの素朴で丈夫な普段着として全国に広まりました。縦糸と横糸の組み合わせによる幾何学的な絣文様が特徴で、手括りによる繊細な柄から、型紙や機械化による大柄なものまで多様なバリエーションが生まれました。
明治以降、機械化とともに大量生産が進み、最盛期には国内最大の生産量を誇りましたが、戦後は需要減少とともに生産も大きく減少。しかし、近年は伝統技法の保存と再評価が進み、備後絣の魅力を伝える取り組みが続けられています。柳は、備後絣を含む日本の絣について著書「手仕事の日本」の中で、日常着としての美しさを称えています。
(現地施設)しんいち歴史民俗博物館・あしな文化財センター
(参考ぺージ)合同会社 カスリラ、青空文庫 柳宗悦「手仕事の日本」 (画像)Masaaki Komori / Wikimedia Commons, パブリックドメイン
久留米絣(福岡県)
「日常着に溶け込んだ藍と白のリズム」
久留米絣は、備後絣・伊予絣と並び「日本三大絣」の一つに数えられる福岡県の代表的な民藝品です。江戸時代、12歳の少女・井上伝によって考案され、藍の濃淡と白が織りなす美しいコントラストと、手括りによる独特の絣模様が特徴です。藍染めされた木綿地は、素朴で温かみのある風合いに仕上がり、明治時代以降は全国に普及し、日常の“不断着”として親しまれ、かつては生産量が年間200万反を超え、10万戸以上が生計を立てていたといわれるほど、生活に根差した織物でした。
柳も著書「手仕事の日本」の中で「おそらく日本のどの国の人も、これで着物を拵えたでありましょう」と、その普及ぶりや実用性、技術の高さを称賛しています。
(現地施設)久留米地域地場産業振興センター
(参考ぺージ) 銀座もとじ 染織に宿る“本物”の美とは。民藝の提唱者・柳宗悦の軌跡を辿る着物街道の旅 知るを楽しむ、青空文庫 柳宗悦「手仕事の日本」 (画像)久留米絣協同組合 / Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0
芭蕉布(沖縄県)
「トンボの羽根のごとき軽やかさ」
沖縄を代表する伝統的な織物・芭蕉布は、糸芭蕉の繊維を原料とし、涼しくさらりとした手触りと、トンボの羽根のような軽やかさが特徴です。柳は昭和10年代に沖縄を訪れ、女性たちが手間ひまを惜しまず作り出す芭蕉布に感動し、「芭蕉布物語」を著しました。
芭蕉布の着物一反を作るには、約200本もの糸芭蕉が必要で、芭蕉の栽培から繊維の採取・糸作り・織り上げまで多くの手作業と根気を要します。かつては沖縄県内各地で織られていましたが、現在は沖縄本島北部の大宜味村(おおぎみそん)喜如嘉(きじょか)が唯一の本格的な産地となっています。戦後、一度は生産が途絶えかけましたが、平良敏子氏らによって復興されました。
(現地施設)芭蕉布会館
(参考ぺージ) 銀座もとじ 染織に宿る“本物”の美とは。民藝の提唱者・柳宗悦の軌跡を辿る着物街道の旅 知るを楽しむ (画像)東京国立博物館 / Wikimedia Commons, パブリックドメイン
紅型(沖縄県)
「南国の色が踊る、琉球王朝の華」
沖縄には、柳が「手仕事の日本」の中で「京友禅に並ぶ華やかさ、女物の着物として世界一の優美さ」と絶賛した染織の紅型(びんがた)があります。これには型紙を用いる型染と、糊袋で自由に描く筒引きの技法があり、顔料や染料で南国の自然を思わせる鮮やかな色柄を表現します。
柳とともに沖縄を訪れた染色家の芹沢銈介は紅型に深く感銘を受け、この体験がきっかけで染織の道に進みました。
「紅型」の「紅」とは紅色だけではなくあらゆる色を、「型」は染を意味し、多彩な色で染め上げた沖縄独自の染物を指します。14世紀~16世紀の琉球王国は交易の拠点として、インドや東南アジア、中国、日本の染色技術を吸収し、王家の庇護のもと独自の美を発展させました。とくに18世紀以降は「沢岻家」「知念家」「城間家」という三宗家が王府から任じられ、格式高い染物として発展。もとは王族や士族の衣裳でしたが、やがて平民にも広まりました。第二次大戦で道具や資料の多くを失うものの、城間栄喜による復興を経て、今日も伝統は受け継がれています。
(現地施設)首里染織館 suikara、琉球びんがた事業協同組合
(参考ぺージ) 銀座もとじ 染織に宿る“本物”の美とは。民藝の提唱者・柳宗悦の軌跡を辿る着物街道の旅 知るを楽しむ (画像)東京国立博物館 / Wikimedia Commons, パブリックドメイン
(関連ページ)
民藝でつながる暮らしと美 — 日本の手仕事と工芸をめぐる入門ガイド①
民藝運動を支えた人々とその足跡 — 日本の手仕事と工芸をめぐる入門ガイド②
「用の美」の伝統が息づく町をめぐる(陶器・紙)— 日本の手仕事と工芸をめぐる入門ガイド③
「用の美」の伝統が息づく町をめぐる(工芸)— 日本の手仕事と工芸をめぐる入門ガイド⑤
民藝館・工芸美術館巡礼(東日本) — 日本の手仕事と工芸をめぐる入門ガイド⑥
民藝館・工芸美術館巡礼(西日本) — 日本の手仕事と工芸をめぐる入門ガイド⑦
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