遺物から見る古代エジプト王朝盛衰史③

○中王国時代

第11王朝、第12王朝
BC2130年頃~BC1802年頃の約330年間
首都:第11王朝 テーベ(現ルクソール) 第12王朝 イチタウイ(メンフィス近郊)
※学説によっては第13王朝を中王国に分類しているものもあります。

古代エジプト中王国時代は、エジプトが再統一され、政治・文化・軍事・宗教がバランスよく発展した「安定と繁栄の時代」で、第11王朝と第12王朝にわたります。

第一中間期の混乱の中、上エジプトのテーベにおいて地方貴族出身のアンテフ家が代々勢力を広げ、同時期に存在した第9王朝、第10王朝と抗争を繰り広げ、最終的に第11王朝のメンチュヘテプ2世がエジプトを再統一し、都をテーベ(現ルクソール)に置きました。

第12王朝ではアメンエムハト1世が首都をイチタウイ(メンフィス近郊)に移し、中央集権体制を強化し、セヌスレト3世の時代にはヌビア(エジプト南部からスーダン北部)遠征や防衛線の構築により国力が拡大しました。

先の古王国がファラオを頂点とする時代であったのに対して、この時代は文化が成熟した「エジプト古典文学の黄金期」にあたり、王も人間として苦悩や老いを見せる「人間味のあるエジプト」の時代でもありました。

芸術面では、第12王朝を象徴する作品として、「セヌスレト3世の肖像頭部」(カイロ考古学博物館他)があり、ファラオの疲れた表情や深い皺、写実的な顔立ちが特徴的です。

日常生活を生き生きと描いた墓の壁画も発展しました。今回展示されていたこの時代のものを紹介すると、すべてのエジプト人が来世において望んだものが列挙され、墓内に安置されたヒエログリフテキストである「アメンエムハトの石碑」(第12王朝初期)があります。これは副葬されたり、あるいは葬儀時に捧げられた供物を補うための効果もあったようです。

 

棺に死後の呪文を記す「コフィン・テキスト」に象徴されるように死後観にも変化が見られるようになったのもこの時代の特徴です。画像は「女性の木棺のパネル」(第11王朝後期~第12王朝初期)の作例で、5つの油壷が置かれた台やベッドとミイラづくりに必要な道具の入った7つの麻袋、鏡、サンダル等が描かれることにより、これらが呪術的に墓の中で存在し続け、死者が永続的に利用できることを確約しています。

文学では世界最古級の散文文学の一つとして高く評価される「シヌヘの物語」が第12王朝の時代に生まれています。この物語は、王の死をきっかけに祖国を逃れた高官シヌヘが異国で冒険と成功を重ね、老いてから祖国へ帰還する物語で、祖国への郷愁、運命、忠誠心といった普遍的テーマや豊かな心情描写から、ホメロスの「オデュッセイア」と比較されることもあり、現代にも通じる物語構造を持ち、古代人の感情や価値観を知る貴重な作品です。

第13王朝以降、王権は弱体化し、貴族勢力の再台頭や地方の分裂によって国内は混乱し、さらに、シリア・パレスチナ地方からの外来勢力(ヒクソス)の進出により中王国は終焉を迎え、第二中間期へと移行しました。

○第二中間期

第13王朝、第14王朝、第15王朝、第16王朝、第17王朝
BC1802年頃~BC1550年頃の約250年間
首都:第13王朝 イチタウイ(メンフィス近郊、上エジプト)、第16王朝  テーベ(上エジプト)、第17王朝 テーベ(上エジプト)、第14王朝 ザウ(下エジプト)、第15王朝(ヒクソス) アヴァリス(下エジプト)

古代エジプト第二中間期は、中王国の終焉後に始まった、政治的混乱と分裂の時代でした。
この時期、エジプトは史上初めてヒクソスという異民族による大規模な侵略と支配を経験します。

下エジプトでは、第14王朝が一時的に独自の支配権を持ちましたが、ヒクソスの台頭によって吸収され、短命に終わりました。
ヒクソス(第15王朝)はアヴァリスを拠点に下エジプトを支配し、馬や戦車といった西アジア系の軍事技術を導入しました。

上エジプトでは、第13王朝の後継的存在として上エジプトに成立した第16王朝が、地方政権として存在しつつも、ヒクソスの圧力に屈し、やがて衰退しました。
やがてテーベを拠点とする第17王朝が台頭し、カーメス王はヒクソス支配圏に攻撃を開始し、戦いの端緒を開きました。この戦いは、後のアフメス1世によるヒクソス追放(新王国の始まり)につながる礎となりました。

芸術文化の面では、ヒクソスが持ち込んだ西アジア系の意匠が、スカラベ印章や陶器などの小型工芸品に見られます。著名な作品に「ヒクソス王アペピのスカラベ印章」(メトロポリタン美術館他)が挙げられます。

一方、上エジプトでは伝統的な美術様式を守ろうとする動きが続きました。
アヴァリスのヒクソス宮殿遺跡からは外国風の装飾が発見され、壮大な建築や王像こそ少ないものの、外来文化と自国文化がせめぎ合い、共存した時代だったことがうかがえます。

参考資料:ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト 図録 2025

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ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト

【巡回予定】
2025年4月19日(土)〜 2025年6月15日(日)会場:静岡県立美術館
2025年6月28日(土)〜 2025年9月7日(日) 会場:愛知県 豊田市博物館
2025年9月2日(土)〜 2025年11月30日(日)会場:広島県立美術館