遺物から見る古代エジプト王朝盛衰史①

皆さんは「古代エジプト」と聞いて何を思い浮かべますか?砂漠、ナイル川、ピラミッド、スフィンクス、ミイラ、ツタンカーメン、黄金、クレオパトラ等…さまざまなものがあると思います。

古代エジプトに最初の王朝(第1王朝)が成立したのがBC3100年頃で、最後の王朝(プトレマイオス朝)が終焉を迎えたのがBC30年と約3100年もの期間、その文明を発達させてきました。砂漠やナイル川など、どの時代にも共通して存在したものもありますが、ピラミッド(ここではギザの三大ピラミッド)が建築された時代とツタンカーメンが活躍した時代、クレオパトラ(ここでは絶世の美女と誉れ高いクレオパトラ7世)が活躍した時代はまったく異なります。

時代の隔たりがわかりやすいように日本史の時代区分に当てはめてみましょう。クレオパトラの活躍した時代を現在(2025年)とすると、ツタンカーメンが活躍した時代はそこから約1300年前で、日本史の時代区分で考えると平城京に都がおかれ、天平文化が花開いた奈良時代になります。またピラミッドが建設された時代は更に約1300年遡った約2600年前で、日本史の時代区分で考えると弥生時代になります。

このようにとてつもなく長い歴史の中で、古代エジプトの各王朝は育まれ、そして滅していきました。現在、東京六本木の森アーツセンターで「ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト展」が開催されており(終了後、静岡、愛知、広島へ巡回の予定)、その中で古代エジプトの各王朝の残した遺物を鑑賞することができるので、それらから各王朝の盛衰の様子をお伝えできればと思います。

〇古代エジプト王朝略年表

時代区分 王朝 存続期間 支配地域 著名なファラオ 象徴する文化・美術
 初期王朝 第1王朝 BC3100年頃~BC2890年頃 上下エジプトの
統一領域
ナルメル(メネス) 王権の象徴としての
ナルメル・パレット
第2王朝 BC2890年頃~BC2686年頃 上下エジプト ホテプセヘムウィ 神権政治と官僚制度の確立
古王国 第3王朝 BC2686年頃~BC2613年頃 下エジプト中心 ジェセル 初の石造建築:
ジェセル王の階段ピラミッド
(サッカラ)
第4王朝 BC2613年頃~BC2494年頃 ギザ周辺を含む
全土
クフ、カフラー、
メンカウラー
ギザの三大ピラミッドと
スフィンクス
第5王朝 BC2494年頃~BC2345年頃 ナイル流域 ウナス 太陽神ラー信仰の強化、
太陽神殿の建設
第6王朝 BC2345年頃~BC2181年頃 上下エジプト ペピ1世、ペピ2世 墓の装飾美術、
ピラミッド・テキスト
第一次
中間期
第7王朝~第10王朝 BC2181年頃~BC2055年頃 地方分裂状態 不明 墓の簡素化、地方豪族による装飾
中王国 第11王朝 BC2134年頃~BC1985年頃 テーベ中心の支配 メンチュヘテプ2世 岩窟墓と葬祭殿の融合
(デイル・バハリ)
第12王朝 BC1985年頃~BC1773年頃 再統一された
エジプト全土
アメンエムハト1世、
センウセルト3世
文学・写本芸術の発展
(『シヌヘの物語』など)
第二次
中間期
第13王朝 BC1773年頃~BC1650年頃 再び分裂傾向 ソベクヘテプ4世 中王国様式の彫刻(写実的表現)
第14王朝 BC1770年頃~BC1650年頃 下エジプト 不明 庶民的陶器と簡素な埋葬文化
第15王朝 BC1650年頃~BC1530年頃 ヒクソスによる
下エジプト
サリティ、アペピ ヒクソス文化の影響(馬・戦車)
第16王朝 BC1650年頃~BC1580年頃 上エジプトの
地方政権
不明 素朴な陶器・地方的装飾
第17王朝 BC1580年頃~BC1550年頃 テーベ中心、
ヒクソスと対立
カモセ、セケネンラー 葬儀用マスク・武器の発展
新王国 第18王朝 BC1550年頃~BC1292年頃 最大領土を支配 ハトシェプスト、
トトメス3世、
アクエンアテン、
ツタンカーメン
アマルナ美術
(写実的かつ個性的)、
神殿建築の拡張
第19王朝 BC1292年頃~BC1189年頃 ナイル全域、
シリアに遠征
セティ1世、
ラムセス2世
戦勝記念碑や神殿
(アブ・シンベル)、
レリーフ美術
第20王朝 BC1189年頃~BC1077年頃 エジプト全土 ラムセス3世 ラムセス3世神殿と戦闘レリーフ、
王墓装飾の精緻化
第三次
中間期
第21王朝 BC1077年頃~
BC943年頃
テーベとタニスの二重政権 スマエンデス1世 神殿芸術の復古的表現、葬祭用彫像
第22王朝 BC943年頃~
BC716年頃
リビア人系、
デルタ地帯
シェションク1世 リビア風の彫刻、簡素な神殿装飾
第23王朝 BC837年頃~
BC728年頃
上エジプト中心 不明 地方分権化に伴う美術の多様化
第24王朝 BC732年頃~
BC720年頃
サイス地方 タフェナクト 短命で遺構ほぼ無し
第25王朝 BC747年頃~
BC656年頃
ヌビアからの支配 ピアンキ、タハルカ ヌビア様式のピラミッドと
彫刻(クシュ文化)
後期王朝 第26王朝 BC664年頃~
BC525年頃
再統一後の全土 プサメティコス1世 サイス様式の復古美術
(古王国様式の模倣)
第27王朝 BC525年頃~
BC404年頃
アケメネス朝
ペルシアの支配
カンビュセス2世
(ペルシャ王)
ペルシャ様式との融合
(碑文・王像)
第28王朝 BC404年~BC399年 下エジプト アミュルタイオス 土着風の装飾とペルシャ影響
第29王朝 BC399年~BC380年 下エジプト ネフェリテス1世 装飾建築と王の彫像
第30王朝 BC380年~BC343年 下エジプト ネクタネボ1世 ネクタネボの神殿建築(復古様式)
第31王朝 BC343年~BC332年 再度ペルシア支配 アルタクセルクセス
3世
再びペルシャ支配、芸術停滞

プトレマイオス朝

プトレマイオス朝 BC332年~BC30年 エジプト全土 プトレマイオス1世、
クレオパトラ7世
ギリシア・エジプト融合芸術
(アレクサンドリアの大灯台、
神殿装飾)

※下エジプトと上エジプト
下エジプトとはメンフィスより以北のナイル川デルタ地域を指し、上エジプトはメンフィス以南 のナイル川流域地域を指します。

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ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト

【巡回予定】
2025年4月19日(土)〜 2025年6月15日(日)会場:静岡県立美術館
2025年6月28日(土)〜 2025年9月7日(日) 会場:愛知県 豊田市博物館
2025年9月2日(土)〜 2025年11月30日(日)会場:広島県立美術館