宇都宮美術館「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち」|ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵展の見どころ【2026】

ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵 展覧会ポスター2026年春、宇都宮美術館で「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵」が開催されます。約10年ぶりに来日するゴッホ《跳ね橋》をはじめ、モネやルノワールら印象派の名品が集う本展は、印象派の前後に広がる19世紀フランス美術の流れを見渡せる展覧会です。

展示されるのは42名の画家による70点。印象派の名品を楽しめるだけでなく、その前後に広がる美術の流れまで見渡せる内容となっています。

ゴッホ《跳ね橋》が約10年ぶりに来日し、さらに栃木県では初公開となることに加え、本展のおもしろさはそれだけではありません。印象派に先立つバルビゾン派や、印象派のあとに広がる新印象主義、ポスト印象派、さらに20世紀初頭へつながる表現まで視野に入れながら、19世紀フランス美術の変化をひとつの流れとしてたどれる構成になっています。ひとつの名画を見に行く展覧会であると同時に、19世紀フランス美術の流れを見渡す展覧会でもあるのです。

宇都宮美術館は、自然豊かな「うつのみや文化の森」に位置する美術館です。森の気配を感じながら作品へ向かう時間も、この展覧会の印象をやわらかく深めてくれるかもしれません。

印象派とはどんな美術の流れか

19世紀後半のフランスで、美術界の中心にあったのはアカデミズムでした。そこでは歴史画や神話画が重んじられ、絵画にはある種の「正しさ」が求められていました。

そうしたなかで、身近な風景や都市の情景、移ろう光や空気を新しい感覚でとらえようとした画家たちが現れます。彼らが後に「印象派」と呼ばれるようになります。

モネやルノワール、ピサロらに代表される印象派の魅力は、単に明るい色彩や親しみやすい主題にあるわけではありません。

――見るたびに変わる光。
――輪郭を揺らす空気。
――時間や天候によって異なって見える風景。

そうした一瞬ごとの視覚の変化を絵画として定着させようとしたところに、新しさがありました。

展覧会の見どころ

約10年ぶり来日のゴッホ《跳ね橋》

フィンセント・ファン・ゴッホ《跳ね橋》(1888年)

フィンセント・ファン・ゴッホ《跳ね橋》本展の最大のハイライトは、フィンセント・ファン・ゴッホ《跳ね橋》です。プレスリリースによれば、本作は約10年ぶりの来日で、しかも栃木県では初めての展示となります。

ゴッホにとって、1888年に滞在した南フランスのアルルは、芸術と色彩の探求を深めた重要な地でした。《跳ね橋》は、そのアルル時代を代表する主題のひとつであり、本展出品作は連作の最後の一点とされています。

まず橋のかたちに目が向かうかもしれません。けれど少し画面全体を見ると、空、水面、道、木々がつくる色の響き合いが強く印象に残ります。黄や青、緑の関係が、風景を説明する以上の力をもって立ち上がってくるのです。

そこに、ゴッホが単に見たものを描いただけではなく、見た世界の強さそのものを絵に変えようとしていたことが感じられます。

※フィンセント・ファン・ゴッホ《跳ね橋》(1888年)ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵
Wallraf-Richartz-Museum & Fondation Corboud, Cologne Photo : ©RBA, Cologne

モネ、ルノワール、セザンヌら印象派の巨匠たち

本展では、ゴッホだけでなく、印象派を代表する画家たちの作品も展示されるのが大きな魅力です。モネ、ルノワール、セザンヌ、ピサロ、カイユボットといった名が並び、印象派の広がりと厚みを体感できる構成になっています。

クロード・モネ《アニエールのセーヌ河》(1873年)

クロード・モネ《アニエールのセーヌ河》たとえば、モネ《アニエールのセーヌ河》は、都市近郊の川辺を軽やかな色彩と空気感のなかでとらえた作品です。水面と空、岸辺の境目がどのように揺らいで見えるかに目を向けると、モネが追いかけた「光の瞬間」が伝わってきます。

また、ルノワール《縫物をするジャン・ルノワール》では、人物の親密さや光のやわらかさが魅力です。セザンヌ《梨のある静物》に進めば、印象派の色彩感覚を受け継ぎながら、形の構造へ向かう視線が感じられるでしょう。

※クロード・モネ《アニエールのセーヌ河》1873年、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵
Wallraf-Richartz-Museum & Fondation Corboud, Cologne Photo : ©RBA, Cologne

印象派の前後に広がる多様な世界

本展のおもしろさは、印象派を完成形として閉じていないところにもあります。

印象派以前のバルビゾン派、さらにその後に展開した新印象主義、ゴーガン、ナビ派、フォーヴィスムまで視野に入れた構成が強調されており、19世紀後半から20世紀初頭にかけての美術の分岐が見えてきます。

シニャック《カポ・ディ・ノリ》には、色彩をより分析的に扱おうとする新印象主義の感覚があります。ゴーガン《ブルターニュの少年》では、自然の再現というより、象徴的な色面の強さが前に出てきます。さらにマティス《コルシカ、古い製粉所》まで視野を広げると、色彩そのものが絵画の主役になっていく流れも見えてきます。こうして本展を歩くと、印象派はひとつの到達点というより、その後の多様な展開を生み出す起点だったことがよくわかります。

コレクションでたどる19世紀フランス美術

本展の作品を所蔵するのは、ドイツ・ケルン市にあるヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団です。初代美術館の開館は1861年にさかのぼり、中世後期から20世紀初頭までの幅広いコレクションを有しています。特に19世紀フランス美術の収集に力を入れてきたことで知られ、本展もその厚みを生かした内容になっています。

ここで興味深いのは、こうした作品群がフランスではなく、ドイツの美術館コレクションとして受け継がれてきたことです。印象派をはじめとする19世紀フランス美術を、ひとつのまとまりとして見渡せるこの構成には、外側からフランス美術を見つめてきたコレクションならではの視点も感じられます。

そのことを静かに示してくれるのが、カミーユ・コロー《ヴィル・ダヴレー》のような作品でしょう。

カミーユ・コロー《ヴィル・ダヴレー》(1860年~1870年頃)

カミーユ・コロー《ヴィル・ダヴレー》コローは印象派そのものの画家ではありませんが、自然の空気や光の移ろいに対する繊細な感受性を、すでに深くたたえています。画面に描かれた風景は、まだ印象派のように筆触を前面に押し出してはいないものの、どこか輪郭がやわらぎ、景色全体がひとつの呼吸をもっているようにも見えます。

この作品が本展に含まれていることによって、印象派は突然現れた運動ではなく、その前から少しずつ育まれていた自然観や視覚の感覚の延長にあったことが見えてきます。モネやゴッホへ向かう流れを考えるうえでも、コローは単なる前史ではなく、19世紀フランス美術の大きな変化を静かに準備した存在として見ることができるはずです。

単に有名画家の作品を集めたのではなく、こうした前後のつながりまで感じさせるところに、本展の魅力があります。

※カミーユ・コロー《ヴィル・ダヴレー》(1860-70年頃)、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵
Wallraf-Richartz-Museum & Fondation Corboud, Cologne Photo : ©RBA, Cologne

この展覧会をもっと深く読むために

本展のおもしろさは、ゴッホやモネの名作を楽しめることだけではありません。印象派に先立つ画家たちから、印象派以後の多様な展開までを視野に入れることで、19世紀フランス美術の大きな流れそのものを感じさせてくれます。

アカデミー的な秩序の揺らぎ、現実を見るまなざしの変化、視覚の更新、そして光の表現からその後の分岐へ。本展は、近代美術がどのように生まれていったのかを考える入口にもなる展覧会です。

当サイトでは、この流れをより深くたどるシリーズ連載「19世紀フランス美術史」を公開しています。印象派を単独で語るのではなく、その前後を含めた美術史の流れのなかで、「なぜこの絵がこの時代に必要だったのか」を考えていく連載です。

あわせて読みたい:
19世紀フランス美術史
印象派の前後をひとつの流れとして読む、近代美術入門のシリーズ連載。

展覧会情報

ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵

展示作品リスト

会場:宇都宮美術館(栃木県宇都宮市長岡町1077)
会期:2026年4月19日(日)~ 2026年6月21日(日)
開館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日、4月30日(木)、5月7日(木)
※ただし5月4日(月・祝)は開館
観覧料:一般1,200円、大学生・高校生1,000円
※中学生・小学生は無料。各種減免あり。

巡回情報

(大阪)あべのハルカス美術館 2026年7月4日(土)~ 2026年9月9日(水)
(愛知)名古屋市立美術館 2026年9月19日(土)~ 2026年11月29日(日)

※巡回情報の詳細は各館公式情報をご確認ください。
※掲載画像の転載ならびにコピーは禁止します。