ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち 徹底紹介|見どころ・作品・会期【2026】

2026年7月4日から、あべのハルカス美術館で「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵」が開催されています。

フィンセント・ファン・ゴッホ《跳ね橋》最大の見どころは、フィンセント・ファン・ゴッホが南フランスのアルルで描いた《跳ね橋》。青い空と水、黄色い橋や道が強く響き合う、アルル時代を代表する作品のひとつです。

けれど、この展覧会の主役はゴッホ一人ではありません。

――コロー、マネ、モネ、ルノワール、セザンヌ、シニャック、ゴーガン、マティス。

展示されるのは、42名の画家による70点です。

静かな自然を見つめたバルビゾン派から、移ろう光を追った印象派へ。
形を組み直したセザンヌ、色彩に感情を託したゴッホやゴーガン、そして色そのものを解放した20世紀初頭の画家たちへ。

本展で見えてくるのは、有名画家たちの名品だけではありません。19世紀から20世紀初頭にかけて、絵画が「何を描くか」から、「世界がどう見え、どう感じられるか」へと変わっていく過程です。

ゴッホ《跳ね橋》を見に行く展覧会であると同時に、その一枚が生まれるまでの長い道のりをたどる展覧会でもあるのです。

フィンセント・ファン・ゴッホ《跳ね橋》1888年、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵
Public domain, via Wikimedia Commons.

この展覧会の見どころ

  • ゴッホ《跳ね橋》とマネ《アスパラガスの束》という二つの重要作品
  • 印象派以前から20世紀初頭までをたどる全6章・70点
  • モネ、ルノワール、モリゾ、セザンヌ、シニャック、ゴーガン、マティスらの作品
  • ドイツの美術館が収集したフランス近代美術の厚み

ヴァルラフ=リヒャルツ美術館とは

本展の作品を所蔵するヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団は、ドイツ西部の都市ケルンにあります。

その起源は、ケルン大学教授で神学者でもあったフェルディナンド・フランツ・ヴァルラフが、1824年に自身のコレクションを市へ遺贈したことにさかのぼります。その後、実業家ヨハン・ハインリヒ・リヒャルツの寄付を受け、1861年に美術館が開館しました。

第二次世界大戦による被害を乗り越え、市民や収集家の力によって作品を増やしてきた美術館で、2001年には、コルブー財団から印象派とポスト印象派を中心とする作品群が加わり、近代絵画のコレクションがさらに充実しました。

現在では、中世からポスト印象派までの絵画を含む、約7万点のコレクションを擁しています。本展では、そのなかからフランス印象派と、その前後に位置する作品が選ばれています。

フランス近代美術を、フランス国内の美術館ではなく、ドイツの市民と収集家が育ててきたコレクションから眺める。その点も、本展のおもしろさのひとつです。

第1章 印象派以前 ―― 何を絵にしてよいのか

展覧会は、印象派が登場する以前の絵画から始まります。

ギュスターヴ・クールベの海景、ヨハン・バルトルト・ヨンキントの風景、ウジェーヌ・ブーダンが描いた海辺などが並びます。

ここで注目したいのは、画家たちの視線が、歴史や神話の大きな物語から、自分たちが実際に生きている場所へ向かい始めていることです。

――海、漁師、浜辺、郊外の風景。

後の印象派が好んで描くことになる世界が、少しずつ絵画の前面へ現れています。

マネ《アスパラガスの束》―― 日常の食材を絵画の主役にする

本展の重要作品として、ゴッホ《跳ね橋》とともに挙げられているのが、エドゥアール・マネ《アスパラガスの束》です。

エドゥアール・マネ《アスパラガスの束》描かれているのは、布の上に置かれた一束のアスパラガス。壮大な歴史も、神話上の英雄も登場しません。

けれど、白く輝く茎、紫がかった穂先、濃い緑の葉が、暗い背景の前で鮮やかに浮かび上がります。絵具の跡を隠そうとせず、対象の質感や光を素早い筆致によってつかんでいることにも注目です。

マネは、伝統的な絵画の世界に身を置きながら、「何を描けば立派な絵画になるのか」という序列を揺らしました。

アスパラガスの束であっても、一枚の絵画の中心になり得る。その感覚は、身近な風景や生活の一場面を描いた印象派へとつながっていきます。

エドゥアール・マネ《アスパラガスの束》1880年、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵。
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第2章 バルビゾン派 ―― 風景そのものを見る

続く第2章では、カミーユ・コロー、ナルシス・ディアズ・ド・ラ・ペーニャ、テオドール・ルソー、ジャン=フランソワ・ミレー、シャルル=フランソワ・ドービニーら、バルビゾン派とその周辺の画家が紹介されます。

彼らはパリ近郊のフォンテーヌブローの森などへ足を運び、自然を直接観察しました。

それまで風景画は、歴史画や神話画より低い位置に置かれることもありました。しかし、バルビゾン派の画家たちは、森や川、農村、夕暮れを、それ自体で描く価値のある主題として扱います。

コロー《ヴィル・ダヴレー》では、水辺の風景が銀灰色を帯びた穏やかな光に包まれています。輪郭は強く区切られず、空、水、木々が同じ空気を呼吸しているようにも見えます。

まだ印象派のように筆触を前面へ押し出してはいません。それでも、自然を固定した形としてではなく、光や大気のなかに存在するものとして捉える感覚が、すでに育ち始めています。

第3章 印象派 ―― 変わり続ける光を描く

第3章では、カミーユ・ピサロ、アルフレッド・シスレー、クロード・モネ、ベルト・モリゾ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、アルマン・ギヨマン、ギュスターヴ・カイユボットの作品が並びます。

印象派の画家たちが描こうとしたのは、永遠に変わらない風景ではありません。

時間、天候、季節によって変化する光。その光によって、色も輪郭も絶えず違って見える世界です。

ピサロ《バザンクールの農場》ピサロ《バザンクールの農場》では、農場の建物や地面、木々が細かな筆触によって組み立てられています。画面のなかにあるのは、整えられた理想の田園ではなく、その日、その時間に目の前にあった土地の表情です。

カミーユ・ピサロ《バザンクールの農場》1884年、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵。
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モネ《アニエールのセーヌ河》―― 都市近郊の光

モネ《アニエールのセーヌ河》が描かれたのは1873年。第1回印象派展が開かれる前年です。

アニエールは、パリの中心部から遠く離れた大自然ではありません。鉄道や舟運によって都市と結ばれた、近代化の進む郊外でした。

モネは、水面に映る空や岸辺の色を、滑らかな面として塗り固めてはいません。短い筆触を重ね、光によって絶えず揺れ動く水の表情を描いています。

どこまでが水で、どこからが空なのか。境界が光によってゆるやかにほどけていくところに、印象派の新しい視覚があります。

ルノワール《縫物をするジャン・ルノワール》―― 光のなかの日常

ルノワール《縫物をするジャン・ルノワール》に描かれているのは、画家の次男で、後に映画監督となるジャン・ルノワールです。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《縫物をするジャン・ルノワール》赤い衣服に包まれ、手元の縫物へ視線を落とす姿には、家庭のなかの静かな時間があります。

光は人物を彫刻のように硬く形づくるのではなく、髪や頬、衣服の表面をやわらかく包み込みます。身近な人間の姿と、そこへ降り注ぐ光そのものが、絵画の主題になっているのです。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《縫物をするジャン・ルノワール》1898年、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵。
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同じ印象派と呼ばれる画家でも、見ていたものは同じではありません。

モネは水や大気へ、
ルノワールは人間の肌や親密な時間へ、
ピサロは農村や土地へ、
モリゾは家庭や女性の生活へ、
カイユボットは都市と郊外の空間へとそれぞれ視線を向けました。

印象派とは、ひとつの技法によって統一された様式というより、それまで絵画の中心になりにくかった「今、ここにある世界」を、それぞれの目で捉えようとした運動だったともいえます。

第4章 ポスト印象派 ―― 見えた世界を組み直す

印象派は、画家たちに色彩や筆触の自由をもたらしました。しかし、その自由をどこへ進めるかについて、次の世代は異なる答えを出していきます。

第4章では、ポール・セザンヌ、ポール・ゴーガン、フィンセント・ファン・ゴッホ、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの作品が紹介されます。

セザンヌ《梨のある静物》―― 形をもう一度組み立てる

セザンヌ《梨のある静物》では、果物や器、布が、安定した遠近法のなかへきれいに収まってはいません。

セザンヌ《梨のある静物》卓上はわずかに傾き、器や果物も、それぞれ異なる角度から見ているように配置されています。

セザンヌは、印象派が捉えた一瞬の光を受け継ぎながら、その奥にある形や空間を、色の面によって組み立て直そうとしました。

静物を写実的に再現することより、絵画のなかにひとつの世界を成立させること。その試みは、後のキュビスムをはじめとする20世紀美術へ大きくつながっていきます。

ポール・セザンヌ《梨のある静物》1885年頃、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵。
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ゴーガン《ブルターニュの少年》―― 色と形を象徴へ変える

ゴーガン《ブルターニュの少年》では、少年の身体が大きく単純化され、背景との境界も強く区切られています。

ポール・ゴーガン《ブルターニュの少年》印象派のように光の変化を細かな筆触で追うのではなく、色面と輪郭によって人物の存在を強く押し出しています。

ゴーガンにとって、絵画は目の前の風景を忠実に再現するためだけのものではありませんでした。色や形は、土地の記憶や精神、画家自身の内面を表すためのものへ変わっていきます。

ポール・ゴーガン《ブルターニュの少年》1889年、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵。
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ゴッホ《跳ね橋》―― 風景を、見たもの以上の強さへ

本展最大のハイライトが、フィンセント・ファン・ゴッホ《跳ね橋》です。

フィンセント・ファン・ゴッホ《跳ね橋》ゴッホが1888年に移り住んだ南フランスのアルルは、強い日差しと鮮やかな色彩のなかで、自らの絵画を大きく変化させた場所でした。

画面の中心には、運河に架かる木造の跳ね橋があります。しかし、まず橋の形だけを見るのではなく、画面全体を行き交う色に注目してみてください。

白や青を重ねた空。青緑色の水面。黄色や橙色を帯びた石と道。黒に近い輪郭線。そして、橋を渡る小さな人物。橋の斜線や垂直線は、画面に強い骨格をつくっています。一方、空や水面では絵具の筆触がうねり、風景全体が動いているように感じられます。

ゴッホは、目の前にあった橋をそのまま写したのではありません。見た風景のなかで、自分が感じた光や色の強さを、現実以上にはっきりと画面へ定着させようとしました。

印象派が光によって色を解放したとすれば、ゴッホはその色に、画家自身の感情や生命感を与えたのです。

フィンセント・ファン・ゴッホ《跳ね橋》1888年、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵
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第5章 点描派 ―― 色彩を理論から組み立てる

印象派の画家たちは、経験と感覚によって光を追いました。

それに対し、ジョルジュ・スーラやポール・シニャックら新印象主義の画家たちは、色彩をより理論的に扱おうとします。

異なる色をパレットの上で混ぜ合わせるのではなく、小さな色の点や筆触として画面に置く。それらが鑑賞者の目のなかで混ざり合うことで、明るく鮮やかな色彩を生み出そうとしました。

本展の第5章には、スーラやシニャックをはじめ、アルベール・デュボワ=ピエ、アンリ=エドモン・クロス、マクシミリアン・リュス、テオ・ファン・レイセルベルヘらの作品が並びます。

シニャック《カポ・ディ・ノリ》―― 光を色の粒へ分解する

シニャック《カポ・ディ・ノリ》では、地中海沿岸の強い光が、青、緑、黄、橙、桃色などの筆触へ分解されています。

ポール・シニャック《カポ・ディ・ノリ》木や海、空の輪郭は保たれていますが、その内部は無数の色によって満たされています。

近くで見ると、それぞれの色は独立しています。少し離れると、色同士が目のなかで響き合い、強い光や空気が立ち上がってきます。

印象派が移ろう光を追いかけたのに対し、シニャックは、光が見える仕組みそのものを絵画のなかに組み立てようとしたのです。

ポール・シニャック《カポ・ディ・ノリ》1898年、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵。
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第6章 20世紀の色彩画家 ―― 色そのものが主役になる

展覧会の最後には、アンリ・マティス、エドゥアール・ヴュイヤール、キース・ヴァン・ドンゲン、アルベール・マルケ、モーリス・ド・ヴラマンク、ピエール・ボナール、モーリス・ドニ、モーリス・ユトリロらの作品が並びます。

ここまで来ると、色は物の姿を説明するためだけのものではありません。

感情を表し、画面の構成をつくり、現実とは異なる絵画独自の空間を生み出すものになります。

マティス《コルシカ、古い製粉所》―― 色彩が自由になる直前

マティス《コルシカ、古い製粉所》が描かれたのは1898年。後にフォーヴィスムを代表する画家となる以前の作品です。

マティス《コルシカ、古い製粉所》この段階では、まだ自然の形や光を観察する印象派的な感覚が残っています。

しかし、木々や建物を形づくる色は、対象固有の色から少しずつ離れ始めています。影のなかにも複数の色が置かれ、風景全体が色彩の関係によって組み立てられています。

コローの静かな風景から始まった本展をここまで歩くと、色彩が徐々に現実の再現から自由になっていくことがわかります。

アンリ・マティス《コルシカ、古い製粉所》1898年、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵。
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ゴッホ《跳ね橋》は、孤立した名画ではない

ゴッホ《跳ね橋》だけを見ても、鮮やかな色彩と大胆な筆触を楽しむことはできます。

しかし、本展の6章を順に歩くと、この一枚が突然生まれたものではないことが見えてきます。

バルビゾン派が風景そのものへ目を向け、マネが絵画の主題の序列を揺らし、モネやピサロが移ろう光を追いました。

セザンヌは色によって形を組み直し、ゴーガンは色を象徴へ変え、シニャックは色彩を理論的に分解しました。そしてマティスらは、色そのものを絵画の主役へ押し上げていきます。

《跳ね橋》は、その流れのなかにありながら、どの画家とも異なる強さを持っています。

――風景を見たままに再現するのではなく、見た世界が自分のなかでどれほど強く響いたのかを描く。

この展覧会は、印象派の名品を集めた展覧会であるだけではありません。

近代の画家たちが、現実と絵画の関係を少しずつ変えながら、光と色を自由にしていった過程を見渡す展覧会なのです。

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展覧会情報

展覧会名 ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵
会場 あべのハルカス美術館
会期 2026年7月4日(土)~9月9日(水)
開館時間 火~金曜日 10:00~20:00
月・土・日曜日、祝日 10:00~18:00
※入館は閉館30分前まで
休館日 2026年7月6日(月)
観覧料 一般2,100円、大高生1,700円、中小生500円
子ども招待 有料の一般観覧券1枚につき、中小生1名無料。大人との同時入場が必要です。
相互割引 大阪市立美術館「水滸伝」展の観覧券提示で、本展の当日券が100円引き。本展の観覧券提示でも「水滸伝」展の当日券が100円引きとなります。
公式サイト あべのハルカス美術館公式サイト
出品目録 こちらから

巡回情報

名古屋市美術館
会期:2026年9月19日(土)~ 2026年11月29日(日)

※開館時間、休館日、料金などは会場によって異なります。最新情報は各館公式サイトをご確認ください。