「特別展 大和の美 古都を彩った絵師たちの競演」②「法隆寺金堂壁画」と「洋画家 大村長府」

奈良県立美術館で開催されている「特別展 大和の美 古都を彩った絵師たちの競演」には、奈良ゆかりの絵画作品が展示されています。ここでは「法隆寺金堂壁画」の模写作品、明治時代に活躍した奈良の洋画家「大村長府」について紹介します。

〇「模写 法隆寺金堂壁画 第九号壁(弥勒浄土図) 模本」桜井 香雲 (明治時代(20世紀)頃 紙本着色) 京都国立博物館 蔵

「法隆寺金堂壁画」。皆さんも一度はお聞きになったことがあると思います。6世紀から7世紀に制作され、奈良を代表する絵画であることはもちろん、世界的に見ても今日まで伝えられる貴重な古代仏教絵画作品です。残念ながらオリジナル作品は、1949年に火災で焼損し、色彩を失ってしまいました。本作はその模写作品の副本になります。
作者の桜井香雲(さくらい こううん 1840年~1902年?)は古画の模写を通じて、画技を身に付けました。明治10年代より博物局の依頼で、数々の宝物類模写に携わっており、この模写からは失われてしまった色彩の情報についての詳細を知ることの出来る貴重な資料となっています。
またオリジナル作品は焼損して以降、法隆寺の大宝蔵院横にある収蔵庫において非公開のまま管理されていましたが、近年、 クラウドファンディング協力者に対して限定公開されています。私も拝観しましたが、諸仏の輪郭線などは明瞭に残っており、焼損し色彩を失ってもなお、そのすばらしさは健在で、言葉にならないほど感動しました。機会がありましたら、ぜひオリジナル作品もご覧ください(参考:2024年 クラウドファンディンク案内)

〇「春日勅祭図(未完)」大村 長府
(明治時代から大正時代(19世紀から20世紀))  カンヴァス・油彩 奈良県立美術館 蔵
題材は、春日大社の例大祭である「春日祭」。天皇の勅使を迎えて挙行され、京都の葵祭、石清水祭とともに三大勅祭の一つに数えられています。現在は3月に挙行されていますが、以前は2月と11月に挙行されていたので、2月に雪が降りつもった時の祭りの風景でしょうか?未完の作品とのことですが、そうとは思えないくらい色彩にまとまりがあって写実的であり、境内の様子を生き生きと伝えてくれる作品です。
作者は奈良県出身の洋画家、大村長府(おおむら ちょうふ 1870年~1925年)。現在ではほとんど知られていない画家で、私自身もこの展覧会に行くまでその存在を知りませんでした。現存作品も少なく、今回の展覧会で展示されている作品がほぼすべてとのことです。

〇「大邨一水翁真像」大村 長府 (大正12(1923)年)  絹本・油彩(画賛は紙本) 奈良県立美術館 蔵
〇「三十一代 中臣植栗連 大東延慶真影」大村 長府 (明治43(1910)年頃) 絹本・油彩 個人蔵

大村長府の父である大邨一水翁、春日大社の権禰宜で歌人であった大東延慶氏の肖像画です。各人の表情や眼鏡等の小物、衣服の質感など非常に繊細で写実的に描かれています。また絹地の掛け軸であるにも関わらず、油彩で描かれているのも特徴的です。通常、油絵具が支持体に浸み込み、劣化させてしまうため、絹地や紙地には油絵具は使用されませんが、幕末や明治期の洋画黎明期にはその作例もあるようです。
大村長府は令和6年度に重要文化財登録をされた「羽衣天女」(1890年 兵庫県立美術館 蔵)で著名な本多錦吉郎に師事し、当時の洋画家の中でも比較的伝統的な作風で描くいわゆる「旧派(影を褐色で表現することから脂(ヤニ)派とも呼ばれる)」に属する画家であり、明治美術会にも参加していました。

〇「奈良雨中ノ藤図」大村 長府 (大正9年(1920年)) カンヴァス・油彩 個人蔵
藤の花が咲きほこる春の春日野。降りしきる霧雨に煙っており、そこには鹿の親子の姿も見えます。上記で紹介した作品と比べると、フランス印象派や同時期に活躍していた黒田清輝(1866年~1924年)ら新派(影を紫色で表現することから紫派とも呼ばれる)のような雰囲気を持つ風景画です。長らくその所在が不明であったようですが、近年に再発見されました。このような作家が奈良で活躍していたことに正直驚きを隠せず、今後も彼の作品が発見されることを願ってやみません。

ぜひ、奈良県立美術館に足をお運びいただき、実物をご覧ください。

(「特別展 大和の美 古都を彩った絵師たちの競演」③へ続きます。)


音声ガイド:なし
作品撮影:特定の作品で可能
図録:650円

奈良県立美術館
特別展 大和の美 ~古都を彩った絵師たちの競演~
2025年1月18日(土)~ 3月9日(日)
休館日:月曜日(ただし、2月24日、3月3日は開館)、2月25日(火)