見えないものを描いた抽象画の先駆者、ヒルマ・アフ・クリント展

ヒルマ・アフ・クリント(1862年 ~ 1944年)はスウェーデンの画家で、最初期の抽象画家の一人です。カンディンスキー(1866年 ~ 1944年)やモンドリアン(1872年 ~ 1944年)、マレーヴィチ(1879年 ~ 1935年)らに先行していますが、自分の死後20年間は作品を公開しないように言い残していたため、長い間、限られた者以外にはあまり知られていませんでした。

現在、東京国立近代美術館において、彼女の回顧展である「ヒルマ・アフ・クリント展」が開催されています。

彼女は1862年にスウェーデンの首都ストックホルムの裕福な家庭に生まれ、1882年に王立芸術アカデミーに入学し、正統的な美術教育を受けます。1887年にアカデミーを卒業した後は、主に肖像画や風景画を手がける職業画家としてのキャリアをスタートさせました。

彼女の作品には、ヘレナ・ブラヴァツキー(1831年 ~ 1891年)が提唱した「神智学」によるスピリチュアリズムの影響が強く見られ、抽象表現と言っても、幾何学的な形態で無機的なイメージで描いたモンドリアン、マレーヴィチとも、生物的な形態で有機的なイメージで描いたカンディンスキーとも異なる表現であり、強いて言えば無機的、有機的の間を捉えた表現であり、「夢を見ているような現実的でない世界」のような印象を受けます。

では彼女の代表作、全193点からなる「神殿のための絵画」(1906年~1915年)の中から、「10の最大物、グループⅣ」シリーズ(1907年 ヒルマ・アフ・クリント財団蔵 キャンバス テンペラ)を紹介したいと思います。いずれも縦3.2m×横2.4mの巨大な画面に描かれた10枚の作品群で、幼年期、青年期、成年期、老年期とヒトのライフステージに合わせているようなタイトルが付けられています。

左側、上部より「No.1 幼年期」「No.2 幼年期」

幼年期は、花や文字、図形等のモチーフが画面上に多く配置され、画面内のバランスはよく似た色彩で仕上げることで、2作品ともよく似た印象でまとめられています。背景のブルーは幼さをイメージさせ、これから成長していこうとする人間の可能性を象徴しているように感じます。

左側、上部より「No.3 青年期」「No.4 青年期」

青年期は、2作品ともさまざまなモチーフや彩色を使用して描かれており、画面内のバランスも異なります。背景のオレンジ色は作品に明るい印象を与え、個々人がさまざま個性を発揮して、さまざまなことに挑み、切磋琢磨する様子を象徴しているように感じられます。

 左側、上部より「No.5 成年期」「No.6 成年期」「No.7 成年期」

青年期は、4作品とも背景のピンクは共通ですが、各作品ごとにモチーフは異なっています。しかし各作品ごとにはまとまりがあり、メインとなるモチーフを中心に画面にまとめられています。これは個々人の生き方が定まり、それぞれが自分の定めた道を歩んでいる成年期を象徴しているように感じられます。

 左側、上部より「No.8 成年期」「No.9 老年期」「No.10 老年期」

最後の老年期は、背景のピンクが共通で、2作品とも描かれているモチーフが左右対称で描かれており、色彩もまとめられています。様々な生き方がある人生を個々人は歩みますが、最後はみんな同じような境地にまとまっていく。そんな老年期を象徴しているように感じます。

皆さんも、ぜひ会場でご覧ください。


音声:あり(配信版もあり)
作品撮影:すべての作品で可能 図録:3,850円

東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
ヒルマ・アフ・クリント展
2025年3月4日(火) ~ 2015年6月15日(日)
休館日: 月
午前10時~午後4時